股関節専門 増原クリニック ブログ

FAI(エフ・エー・アイ)って何?


股関節が痛む原因の1つに「FAI(エフ・エー・アイ)」というものがあります。

初めてお聞きになった方も多いとは思いますが、
近年、股関節に関する医療界では注目が高くなっています。


「FAI」とは、femoroacetabular impinementの略称です。
2003年にGanzらによって体系的に示されました。

日本では、「大腿骨寛骨臼インピンジメント」と訳します。
大腿骨は太ももの大きい骨です。
寛骨臼というのは、骨盤のくぼみです。
この大腿骨と寛骨臼が合わさる場所が、「股関節」です。

インピンジメントとは、「衝突」を意味します。
つまり、「大腿骨と寛骨臼が衝突すること」を「FAI」と呼びます。

股関節で音が鳴る


膝と胸を近づけるような股関節を深く曲げたとき、
股関節の前側の部分で、
大腿骨と寛骨臼がぶつかります。

具体的には、このような「しゃがみこむ」、「大きな前かがみ」、「内また」などの姿勢のときに「FAI」は起こりやすいです。


股関節唇損傷しやすい姿勢

このときに、大腿骨と寛骨臼がぶつかることで、その間で挟まれるようにして股関節の縁の部分にある関節唇や軟骨が傷ついてしまいます。

股関節唇損傷

これが「股関節唇損傷」です。

この寛骨臼の縁を取り巻く股関節唇を傷つけることで、股関節に炎症が起こり、痛みが生じます。




でも、このような姿勢は日常的にしているという方は多いですよね?
特に和式生活のようなしゃがむことが多い日本人は、このFAIによる股関節唇損傷は起こりやすいということが言えると思います。


しかし、このFAIは起こりやすい人とそうでない人の特徴があります。


昨年、2015年には日本の股関節学会からも「FAI」の診断における指針が出されました。
FAIの特徴と詳細な診断基準が示されています。


日本では、変形性股関節症というと成長過程での股関節の形成不全など、
もともとの股関節の構造的な不利があり、
それが原因で股関節症に進行していくことがよく知られています。

診察でレントゲン画像を見て、「股関節のはまりが浅い」、「赤ちゃんのころ股関節がはずれて(脱臼して)いた」と言われた方は、これに当てはまります。
診断名は、「臼蓋形成不全」、「先天性股関節脱臼」とされます。

くれぐれも間違ってはならないことは、
このような股関節の形成不全は、正常な股関節のかたちをしていないというだけであり、
この股関節のかたちの問題だけで、
股関節に痛みが必ず生じるとは限らないということです。


自分が臼蓋形成不全であることを知らずに、学生のころに部活でバスケットボールやバレーボールをしていたが、
全く股関節に痛みは感じたことがないという方を多く知っています。


股関節のかたちの問題にプラスして、もう1つ何らかの問題が加わることで、
股関節は悲鳴をあげ、痛みが生じることになります。

反対に、そのもう1つの何らかの問題が起こらないようにすれば、
例え股関節のかたちの問題があっても、
股関節は救われるわけです。

「臼蓋形成不全」という股関節のかたちの問題をお持ちの方は、
正常な股関節のかたちの方に比べると、
股関節を痛める危険性が高いことは確かではありますが、
それだけで股関節を痛めるということはないということをご理解していただきたいと思います。


少し話はそれましたが、「FAI」も同じです。

「FAI」が起こりやすい「股関節のかたち」というものがあります。

「股関節」という関節は、
進化の過程で、四足歩行から二足歩行へ移行したときに、
最も影響を受けた関節と言えます。

進化の過程

4本足で歩くときの股関節の負担と2本足で歩くときの股関節の負担は随分違います。
また、股関節に体重がかかる方向が大きく変わりました、

この大きな変化に股関節はまだ完全に対応しきれていません。

つまり、人間の股関節はまだ進化の途中である可能性があります。

そのため、人間の股関節のかたちは十人十色と言って良いほど様々です。
レントゲン画像で、股関節に痛みのない人の股関節のかたちを見ても本当に1人1人異なります。

その股関節のかたちの不安定が、股関節の障がいや傷がいを生じる危険性を高めています。




「FAI」が起こりやすい股関節のかたちとは?
FAIの診断指針にも示してある特徴があります。

FAIの分類


股関節のかたちの問題をタイプ分けすると3つあります。
上の図のように、
「CAM(カム)」タイプは、大腿骨のかたちに問題があります。
大腿骨の頚部と言われる頭から首の部分が斜線で示されたように出っ張っています。

「PINCER(ピンサー)」タイプは、骨盤の寛骨臼のかたちに問題があります。
寛骨臼の縁の部分が余分に出ています。

「MIXED(ミックス)」タイプは、大腿骨と寛骨臼の両方に問題がある場合です。



大腿骨のかたちの問題(カムタイプ)の方のレントゲン画像はこちらです。

カムFAI

少し分かりにくいかもしれませんが、
大腿骨の頚部と言われる首の部分が太くなっています。


寛骨臼のかたちの問題(ピンサータイプ)の方のレントゲン画像はこちらです。

ピンサーFAI

寛骨臼の彫りが深く、大腿骨の頭が入り過ぎています。



正常な股関節の方のレントゲン画像はこちらです。

股関節正常レントゲン

見た目に違いがわかるでしょうか?



このように股関節のかたちも様々であり、
股関節の骨が余分に出っ張っている方は、FAIが起こりやすいことが言えます。


日本では、股関節の痛みの原因は、「臼蓋形成不全」という股関節のかたちの問題がほとんどだとされてきました。
しかし、最近の調査では日本人においてもFAIが起こりやすい股関節のかたちの問題を持つ方は珍しくないことが明らかになってきました。

このFAIが起こりやすい股関節のかたちの問題があるかどうかは、実際にレントゲンを撮らないと分かりません。

特に股関節に痛みや違和感、脚の開きにくさなどがない場合は、気にされる必要はないと思います。

もし、気になるところがある方は受診されることをお勧めします。



FAIに対する対処方法は、その人によって異なります。

FAIが起こりやすい姿勢や動作に気を付け、
FAIが起こりにくいような動作習慣を身につけることが大切です。

人により生活習慣が異なりますので、それに合わせて我々もアドバイスさせていただいております。

また、股関節のかたちの問題に合わせて、FAIが起こりやすい筋肉の問題がある方もあります。

FAIを起こさない予防が大事です。



もし、FAIによる股関節の痛みに悩んでいるという方は、リハビリにまず取り組んでください。
理学療法士の指導を受け、保存的に治療を行なってみることで、
股関節の痛みが治った方も多いです。

自己流でやらずに、適確な指導を受けられることをお勧めします。


股関節は身体の中のほうにあるので、
その股関節の一部を傷つけられたからと言っても、
膝や手を怪我したときのように見た目に分かりやすく腫れたりはしません。

しかし、股関節の中では大きく腫れているかのような状態になっています。


見た目に痛いことが分かりやすいと無理をせず、周りにも労わってもらえるのですが、
見た目には股関節の怪我は分かりにくいので、
痛いのに無理をしてしまい、さらに悪化しやすいです。


数か月の間、股関節の痛みがあるのに我慢してお仕事を続け、
気づいた時には、股関節の骨まで変形してきてしまっていたという方もあります。


FAIが発端で変形性股関節症になる方も多いです。


股関節の痛みの原因が何か?
それを知った上で、早期に対処していくことが大切であると思います。



長くなってしまいましたが、「FAI」というものを少しでも理解いただけたら嬉しく思います。
また、具体的なFAIの事例や最近の知見などご紹介させていただければと思います。




参考文献:
・Ganz R: Femoroacetabular impinement: A cause for osteoarthritis of the hip. Clin Orthop Relat Res 417: 112-120, 2003.

・中川法一(増原クリニック副院長)編集:トータルヒップケア 股関節 チームで支える人工股関節全置換術 三輪書店

トータルヒップケア






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